アーティストがいる「現場」だからこそ、
聞こえてくる協和的な言説も、不協和的な言説もあります。
その間で揺らぐスタッフもいれば、直立不動のスタッフもいたり。
サンタさんも入れ代わり、2016年のクリスマス会が終わりました。
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今年最後の長文です。
先日、東京藝術大学(教育原理)で講演を行いました。
3年連続で登壇させて頂いのですが、
今回は150名近い学生君、新進芸術家のみなさんが
集ってくださいました。感謝です、ありがとうございました。
2020年オリンピック・パラリンピックを見据えて
「障がいのあるアーティストの芸術表現活動」を
俯瞰的にお話させていただきました。
テーマは「アール・ブリュットのジレンマ
-引き裂かれた障がい者アート」です。
<善意>の名のもとで展開されているジレンマは
福祉だけではありません。芸術的な領域でもさまざまな
ジレンマを抱えています。そしてそのジレンマは政治家を
動かし国民にル−ルを課す法律に姿を変えようとしています。
しかしいまだに、そもそものアール・ブリュットに対する
議論が未整理・未理解のまま、さまざまなジレンマを
抱えこんでいます。
一方でオリパラの文化予算は、2020年にむけ
「障がいのあるアーティストの芸術表現活動」に投下を
予定しています。文化庁だけではなく厚生労働省も
相乗りした予算付けは、現代アートを凌ぐ勢いになる
ことでしょう。
そんな時流を意識して今回の芸大の講演では、
「アール・ブリュットと和製アール・ブリュット」に
照準を合わせて解説しました。
ジャン・デュブュッフェが創造したアール・ブリュットの
定義とな何か?を3名ほどの研究者の言説を援用。
ついで、私自身のアール・ブリュットの原点でもある
「シュバルの理想宮」でアートとデザインの違いについて
述べました(シュバルこそ、我がアール・ブリュット。
約20年前に出会った私のアートの原点です)。
講演の中盤では、社会福祉事業者・美術関係者
・国(厚生労働省、文化庁)・東京都の取り組みを
ピックアップし、それぞれの善意のジレンマが
障がいのあるアーティストの表現活動を、
いかに引き裂いているかを報告しました。
先述したようにこの分野への予算配分は大きく伸びています。
裾野は年々広がっています。
だからこそ、福祉・芸術をきちんと架橋させる必要があります。
このまま和製アール・ブリュットが一人歩きすると、
昭和の放浪の画家・山下清と同様に芸術領域から黙殺され、
葬られる恐れがあると思っています。
現段階では美術研究者から和製アール・ブリュットへの
定義付けはされていません。
黙殺が進行している証左ではないでしょうか。
加えて「障がい」「福祉」が絡む芸術である以上、
ポリティカルなパワーが付与されています。
要するに「障がいのあるアーティストの芸術表現活動」は、
「福祉と芸術と政治」を架橋しなければ、整理できない、
とんでもなく複雑系なのです。
さまざまなジレンマは、<善意>から発動したジレンマです。
右も左もみんな「よかれ」からスタートしたはずなのです。
しかし、私のもとへは、福祉事業者や美術研究者、国
・地方公共団体から和製アール・ブリュットの美術的齟齬を
指摘する声が集まっています。
加えて、社会福祉学研究者からは、
障がい者をラベリングする和製アール・ブリュットへの
嫌悪感も寄せられています。つまりそれは分断であり、
スティグマ付与だとする異議申し立てです。
ただ、既に和製アール・ブリュットの活動には、
沢山のアーティストやご父兄も参加されているのも事実です。
そして、喜びを享受されています。
いまさら梯子を外す(和製アール・ブリュットを一方的に
批判・否定すること)ことはできません。
その上で、さまざまなジレンマを解放する鍵は、
1.本物のアール・ブリュットに帰る
2.和製アール・ブリュットの定義をつくる
3.没交渉(和製アール・ブリュットとは関係を絶つ)
ではないか……と、芸大の講演では帰結させました。
その選択には、やはり「福祉と芸術と政治」でフラットな
対話が必要ですね。
「よかれ」の善意のなかにも小異はあります。
でも「障がいのあるアーティストの為に」で繋がった
人と団体なら、小異を捨てて、
障がいのあるアーティストの為に知恵を出せるはず、です。
対抗でも排除でもない、
大きな乗り物はつくれないものでしょうか。
サバイブしたくてもできないアーティストがいることを忘れずに。
年が明けたら、みなさんで考えていきたいと思います。
いつものメンバーで、
いつもの一年だったことが何よりの幸せです。
インカーブスタッフの忘年会もいつものように。
大難が小難で終わりそうです。
みんな、ありがとう。
批評者である前に制作者であること。
机上で語る前に現場で語ること。
歳を重ねるたびに「現場が基本」ってことです。
拾ってきたブリキを折り曲げながら、
インカーブのアーティストの立ち振る舞いがラップしたり、言葉が巡ったり。
そんな制作過程があったようです。
インカーブスタッフの東亨が東京で展覧会を行います。
お時間があれば見てやってください。
http://incurve.jp/about/staff_azuma.html
◉『作用展』@OUTBOUND/吉祥寺
12月21日~1月16日
http://outbound.to/news/
参加予定作家
井藤昌志 柏木圭 金森正起 熊谷幸治 杉田明彦
須田二郎 冨沢恭子 森田春菜 廣谷ゆかり 福井守
山崎大造 横内みえ 渡辺隆之 渡辺遼 東亨
◉『生活工芸と作用』@la kagu/神楽坂
1月18日~2月15日
http://www.lakagu.com/
http://www.kogei-seika.jp/blog/seika/201612.html
la kaguは新潮社の元倉庫を隈研吾事務所がリノベーション
しました。
出展ギャラリー
ギャルリももぐさ(岐阜)gallery yamahon(三重)OUTBOUND(東京)Gallery SU(東京)
◉『工芸青花』
http://www.kogei-seika.jp/
新潮社の『工芸青花』7号(1月発売)でOUTBOUND店主の
小林和人さんに作品をご紹介いただく予定です。
編集長の菅野康晴さんは「芸術新潮」や「とんぼの本シリーズ」を企画されました。
http://dotplace.jp/archives/14592
これに合わせて、OUTBOUNDの個展が早まり、
4月を予定しています。