「自分は絵を描いているひと」
東京オペラシティーアートギャラリーをはじめ国内の美術館で展覧会を重ねて来た湯元光男(b.1978-)。画面には、色鉛筆で鮮やかに彩られた建物や動物が浮遊し、幻想的な世界が構築されている。20代になって絵を描き始めた湯元が、十数年間かわらず建物や鳥、動物を描くのはなぜなのか。制作への向き合い方やモチーフに対する思い入れなど、普段は膝を突き合わすとはぐらかされるような話にこたえてくれた。
I Am a Man for Drawing Pictures
The artwork of Mitsuo Yumoto (b.1978-) has been exhibited in art museums in Japan, including the Tokyo Opera City Art Gallery. In his pencil drawings, brilliantly colored buildings and animals float, creating a fantastic world. He started to draw in his twenties. Why has he drawn buildings, birds, and animals for more 10 years? He responded with stories, such as how to face his creations of art or his feelings for a motif, although, usually, he tends to deflect serious questions when encountered face to face.
Artwork
ワシリイ大聖堂
2021 鉛筆、色鉛筆/紙 728×1030 mm
Saint Basil’s Cathedral
2021 pencil and colored pencil on paper 28.6×40.5 inch
聖ソフィア大聖堂
2021 鉛筆、色鉛筆/紙 728×1028 mm
Saint Sophia Cathedral
2021 pencil and colored pencil on paper 28.6×40.5 inch
ポーランドとウクライナのカルパティア地方の木造教会群
2021 鉛筆、色鉛筆/厚紙 257×364 mm
Wooden Tserkvas of the Carpathian Region in Poland and Ukraine
2021 pencil and colored pencil on paper board 10.1×14.3 inch
Yumoto usually responds in a light tempo with jokes. On the other hand, he never put away his brushes during a long slump of several years. It may be a manifestation of his pride, which he describes as “a man for drawing pictures.” Yumoto's work will be exhibited for the first time at Art Fair Tokyo 2022. Some of artworks on this page are available. If you are interested, please contact us at info@g-incurve.jp.
Interview
聞き手:ギャラリー インカーブ| 京都 スタッフ
2022年2月|アトリエ インカーブにて
Contents
建物と動物
スタッフ(以下 太字):湯元さんは、これまでに建物を多く描いてこられました。どうして建物を描くのでしょう。
------ 湯元(以下細字):なんでやろうなあ、まぁ、好きだからだろうね。外観が好きなんだな。中身は別に興味ない。
とくに海外の建物とかがいいんだよな。高い塔とか門、古いお城とか。昔からゲームの背景に写っている建物とかも気になってたな。知り合いの大工の手伝いをしたこともあった。
まぁ今でも、建物見ながら、外歩いているわ。
外国の建物など、実際に行ってみたいという思いもあるんでしょうか。
------ そりゃあ、できたら行きたいけど、俺は乗り物酔いするから絶対に無理やな。
建物を描くときに意識していることはありますか。
------ 建物のもともとある形や姿を大切にするってことやなぁ。あんまりいじりすぎると、味がなくなっちゃうじゃん。建物のイメージを壊したらあかん。色は変えてるけどな。
建物と一緒に動物や鳥も登場しますよね。
------ 動物も好きだからな。俺の母親が鳥が好きで、描いたら喜んでくれたから、鳥もよく描くね。俺が一番好きなのは猫やけど。
でも描くのはまた別やから、猫はあんまり登場しない。鳥は愛くるしいな。くちばしとか目がかわいい。
基本的に小型の鳥がいいんだよな。あとは、カラフルな鳥もいいね。クジャクやらなんやら、いろいろあるやろ。
作品に登場する鳥や動物の種類は、どうやって決めているのですか。
------ その建築物のある地域に生息している動物たちを描いてる。建物を先に描くから、鳥たちを描くスペースがなければ描かんな。
あくまで建物が中心。
湯元さんの作品の中には人間がほとんど出てこないですよね。
------ ははは、俺はもともと人間(と接するの)が得意じゃないからな。
ずっと前には描いたことあるけど、なんかうまく描けなくて。それ以降は描いてへんな。俺には合わんかった。
描いてても面白くない。動物の方がかわいい。
色について
建物を描く時、形状は保ちながら、色は変えているとのことでしたが、色を決める時に意識していることはあるんでしょうか。
------ 建物そのものの色はつかわんな。建物の印象やその国の印象で色を塗ってる。あとカラフルにしたいと思ってる。
明るくしたいんだな。虹みたいに色が揃ってると綺麗じゃん。
まぁ、あれやな。俺は根が暗いから、綺麗なものに惹かれるんだな。カラ元気みたいなもんだ。
好きな色などありますか。
------ 好きな色は、白とエメラルドグリーン。
特に白は心が洗われる感じがいいんだよなぁ。
どうして白が好きなんですかね。
------ 好きなものは好き。理由なんてないじゃん。
まぁしいて言えば、俺は腹黒い人間だから、白に憧れるってことなんだろうな、ははは。
たしかに、そうですね(笑)。
------ おいっ(笑)。
絵を描いているひと
湯元さんの作品は多数ありますが、最近で一番うまくいった作品はありますか。
------ 『ワシリイ大聖堂』かな。細かい柱の部分が気に入ってるな。 この作品がきっかけで制作がのってきた感じがあるな。ここ3,4年は自分の中では全然うまくいかなくて、スランプだったしな。しんどかったなぁ。けど、この作品で乗り越えられた感じがする。
3,4年のスランプは長かったと思いますが、それでも描くことはやめませんでした。なぜ描き続けられたのでしょうか。
------ ずっと描き続けていたら、いつか乗り越えられると思っていたからかな。しんどかったけど、絵を描くのは嫌いじゃないし。あとはインカーブのおいしいお昼ごはんが支えてくれたかな(笑)。
その辛い時期を超えて今はどんな心境ですか。
------ いいものができてるな。今は、のってる。
湯元さんにとって今回のアートフェア東京は初出品となりますが、来場される方に何か伝えたいことはありますか。
------ 作品の細かい部分までみてほしいな。それと感想を言ってほしい。俺もどんな風に作品がみえるのか知りたいし、参考にしてもっと良くしていきたい。自分では気づかないことを知りたい。
作品を見る人に、感じてほしいことなどありますか。
------ そんなのはないね。みるひとの自由じゃん。逆にどう感じたのか聞きたいもんやで。
お客さまからの感想を聞いて、作品が変わっていくことはあるんですか。
------ やってみて、納得すれば、(変化することも)あるんじゃない。どんどん上達していきたいしな。でも色鉛筆で描き続けることだけは譲れないね。
感想を聞いたら、ショックなこともあるかもしれませんよ。そうしたらへこみませんか。
------ へこむわけないじゃん!へこむやつは自分に自信があるやつだけ。俺は最初から自信がないからな。でも好きな作品に言われたら、ちょっとはへこむかもな、ははは。
もう20年近く絵を描き、ギャラリー インカーブ|京都のアーティストとして作品発表を続けてこられました。アーティストと呼ばれることについてはどう感じていますか。
------ いや、それほどでも(照)。ってか、なんか違和感あるんだよな。
違和感ですか。では自分のことを紹介するとしたら何と言いますか。
------ 絵を描いている湯元光男です。
絵を描いている湯元光男さん、これからも絵を描いていこうと思いますか。
------ まぁ、そうだね。描いていくんだろうな。
普段から、冗談を交えながら軽快なテンポで受け答えする湯元。それだけに、制作や作品の核心に迫ることは、これまで稀であった。それは、数年もの長いスランプの間も、決して筆を置かなかった湯元の、「絵を描いているひと」という矜持のあらわれなのかもしれない。絵を描くということは、言葉で語らずとも、うまれる作品を好きなようにみてもらうこと。ひとの心を揺り動かす綺麗な色を、今日も変わらず塗り続ける。
Biography
湯元 光男
1978年生まれ。建物や動物、鳥などのモチーフを色鉛筆で描く。建物は外観が正面から描かれているが、水面に映るように微妙にゆらぎ、その周りを鳥や動物が舞っている。外国の古城や聖堂は、絢爛たる社殿を思わせる極彩色でいろどられ、画面にはユートピアに迷い込んだかのような安らぎと高揚が交錯する。現代美術館から百貨店のアートギャラリー、デザインホテルまで幅広く展覧会が開催されている。主な展覧会 ・ アートフェア
ART@DAIMARU(京都・2021), TRUNK(HOTEL)(東京・2019)、ギャラリーアセンス美術(大阪・2013, 2011, 2009)、 東京オペラシティ アートギャラリー(2012)、銀座三越ギャラリー(東京・2012)、 アート京都(2012)、SELFRIDGES(ロンドン・2011)、浜松市美術館(2010)、 (marunouchi)HOUSE(東京・2010)、高梁市成羽美術館(岡山・2009)、 サントリーミュージアム[天保山](大阪・2008)など。
Mitsuo Yumoto
Born in 1978, Mitsuo Yumoto draws buildings, animals, and birds using colored pencils. The exteriors of buildings drawn from the front tremble slightly as if reflecting the surface of water. Old castles and shrines from foreign countries, like the gorgeous shrines of Japan, are brilliantly colored. In his pieces, comfort and exhilaration are mixed, as if one were lost in utopia. His exhibition has been held in various places such as contemporary art museums, art gallery in department stores, and design hotels.Exhibitions ・ Art Fairs
ART@DAIMARU(Kyoto・2021), TRUNK(HOTEL)(Tokyo, 2019), Gallery Athenth(Osaka, 2013, 2011, 2009), Tokyo Operacity Art Gallery(2012), Ginza Mitsukoshi Art Gallery(Tokyo, 2012), ART KYOTO(2012), SELFRIDGES(London, 2011), Hamamatsu Municipal of Art(Shizuoka, 2010), (marunouchi)HOUSE(Tokyo, 2010), Nariwa Museum(Okayama, 2009), Suntory Museum(Osaka, 2008)